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ストーリーからおう〜3月の鞍馬天狗(中西 紗織編) [varied experts]

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今回は《鞍馬天狗》。観世流の謡曲季節表では三月の能で花見の場面から始まります。
前ジテは山伏、実は天狗が化けていて、後ジテは天狗の姿で現れます。源義経は、子供の頃に、鞍馬の山で天狗たちと日々稽古して数々の武術や兵法を教わったと
伝えられています。人間離れした武芸を身に付けた源氏の武将として後に平家を滅ぼす主要人物。平家の全盛時代から源氏へと時代が動いていく・・・
そのような歴史の中のこともこの能の背景となっています。
能《鞍馬天狗》・・・作者 宮増某(謡本による)
登場人物・・・・・前ジテ:山伏 後ジテ:天狗  ワキ:僧 ワキツレ:同行の僧(2、3人)
         前子方:牛若丸と稚児数人 後子方:牛若丸 アイ:能力、木葉天狗
場所・・・・・京都 鞍馬山(現在の京都市左京区鞍馬本町)
季節・・・・・三月(観世流謡曲季節表より)(曲柄 五番目 切能)    
●前ジテ登場:囃子方と地謡方が着座すると、山伏が登場。この能は前ジテの名のりで始まります。鞍馬の山奥、僧正が谷という所は天狗が住んでいたという言い伝えが
あります。山伏はこの鞍馬寺で花見があると聞いたので私も眺めたいと思いやってきました・・・と。
●僧(ワキ)その従者の僧たち(ワキツレ)牛若丸と稚児(子方)登場:誘いを受けた僧たち、ワキとワキツレと、子方の牛若丸と稚児たちが登場。一行は揚幕から
出てくると橋掛りにずらりと並びます。子供たちがとてもかわいく、花見のウキウキした気分も盛り上がります。一行は本舞台に移動し早速花見の酒宴が始まります。
●ワキと子方の退場:寺の男が一さし舞うところに、見知らぬ山伏が現れたので、皆警戒。これは不審者ではないか。源平両家の稚児たちがいるので、
僧たちは花見は明日にしましょうと言って稚児を連れあっという間に立ち去ってしまいます。
●牛若丸(子方)と山伏(前ジテ)の交流:一行が去ったあとに一人、少年が残っています。それが牛若丸。能の中では「沙那王」という名で出てきます。
山伏は、花見の場に貴賤親疎はない、関係が親しいとか疎遠だとかは関係ないと言われているのに、浮世から遠いこの鞍馬寺ではそれも通じないのか。
ご本尊が慈悲深い多聞天であるのに慈悲のないことだと嘆きます。すると、沙那王も自分にも親しい者はない、一緒に花見をしましょうと山伏に声をかけます。
そして、自分の身の上話をします。先ほどの稚児たちは平家の一門、今を時めく花のよう。私も同じ寺にいるのに「月にも花にも捨てられて候」と孤独な身の上だと
語るうちに山伏は気づくのです。この少年は、平治の乱で敗れた源義朝を父とし常磐御前を母として毘沙門の「沙」の字をとって沙那王と名づけられたお方だと。
山伏は沙那王を連れ、夕暮れの山々の花の風景をめぐります。沙那王は親身になってくれる山伏に「御名を名のりおはしませ」と言うと、山伏は「我はこの山に年経たる。大天狗は我なり」と正体を明かします。そして、あなたは兵法の奥義を受けて平家を滅ぼすべき人なのだと言い、明日また会おうと言い残し飛び去っていくのでした。
●沙那王(子方)と天狗(後ジテ)再登場:翌日、沙那王は長刀を手に勇ましい装束で待っていると、約束通り天狗が本来の姿で現れます。羽団扇という持ち物が特徴的。
●天狗(後ジテ)は中国の張良の故事を語り兵法の奥義を授ける:天狗は、先ほどつかわした木の葉天狗との稽古の事を沙那王に尋ねます。
沙那王は大切な師匠の家臣たちを傷つけてはいけないと手加減したのだと話します。天狗は自分のことを師匠と思い大事にしてくれる事に感心し中国の故事を語ります。
昔、漢の高祖の臣下の張良が仙人の黄石公の沓を拾ってはかせ、兵法の奥義を授けられたというお話し。同じ様に天狗は沙那王に兵法の秘伝を残らず伝授しました。
●〈舞働〉沙那王の活躍を予言し去っていく天狗:いよいよ能の最後の場面。天狗は威厳をもって豪快に囃子の音楽による舞を見せ、沙那王が平家を滅ぼすことを予言。
その身を守護することを約束します。沙那王は去っていこうとする天狗の袖にすがりつき別れを惜しみます。天狗も名残り惜しいことだが、合戦においても影の様に
つき従って守り支えましょうと言うと、夕影の鞍馬山の「梢に翔って失せにけり」と、樹々の彼方へ消え去っていくのでした。
「実は、先日北海道教育大学釧路校の学生たちと東京へ研究のための旅行に行ってきました。歌舞伎とミュージカルと能を鑑賞したのですが、ミュージカルは劇団四季の《バケモノの子》。それで、能《鞍馬天狗》とどこか筋が重なると学生が言うのです。つまり人間ではない、異形というか異世界の存在から稽古をつけてもらい特殊能力を授かる。人間の力をはるかに超えた存在と関わり心通わせることで不思議なことが起きるというのは、物語のテーマとして昔からあることなのかもしれませんね。」

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