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looking back on his artwork [close to you <art編>]

羽生輝展では5つの章から構成された展示をしています。今回は章ごとのご紹介です。
第1章:画家へと歩みだす〜日本画への憧憬
6歳の時に東京から釧路へと移り住み、釧路で画家への夢を膨らませたのです。大学では油彩画を専攻し、久本春雄の家に出入りするようになってから影響を受け、
日本画への思いを強くします。その久本氏は彼に技術的な手ほどきはせず、画家としての心構えを熱心に説いたそうです。
「知っていて誤魔化すのと知らないで誤魔化すのは違う」と写生による徹底した対象の把握を重視し、自身の制作を通じて絵と向き合う姿勢を教わったのです。
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第2章:挑戦と迷い〜自身のモチーフを探して
海岸、岬、番屋といったこれまで描いてきたモチーフを吟味し、厳選して描き出す・・原点に立ち戻りながら新しい構成を探る道に出ます。
モチーフが現れては消え、また現れるといった地道な繰り返しの作業。その中から彼独自の何かを見つけるのです。
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第3章:静寂と温もり〜五感を澄ませて
厳冬期に制作を進めることが多かった彼は、冬の海岸風景の中からあえて、海と平野に挟まれた漁村に目をつけます。
人々のささやかな営みが風雪厳しい画面に中に息づきます。ところが「あんたの絵からは魚の匂いがしてこねえんだよな」と言われた言葉に身を硬くし・・。
姿や形だけではなく匂いや寒さ、風の切る音までが絵から伝わるようにデッサンを繰り返すことに。
自然を体に刻み込み描くことで、それは自分の表現方法を探ることに繋がっていくのです。
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第4章:海霧を描く〜見えない海を感じるように
原田康子の新聞小説「海霧」の挿絵を担当した縁で、明治時代の北海道の資料と向き合い、今はない原初の自然の姿を再発見することになります。
釧路川河口にあった岬「オダイト」。砂州と岬が連続していたという姿を想像すると、人の手が及んでいない荒々しい断崖の姿が深い霧とともに
彼の心の中に浮かび上がりました。この挿絵連作をきっかけに海岸線から岬へ視線がうつっていくのです。そしてもっと先の・・・。
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第5章:湿原からふたたび浜辺へ〜悠久の岬を望む
2000年半ば以降、釧路湿原を繰り返し取り上げるようになります。
2014年からの4年間は四季折々に繰り広げられる湿原の姿をとらえた連作を発表。
彼にとっての長年の課題でもあった釧路湿原。そこには夕日が必ず描かれている・・・。
浜辺と湿原を往還し、悠久の岬を望みながらこれからも深遠な絵画世界を追求し続ける姿を最近の作品からは見て取ることができる。
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「何を、どう描くのか」という自問自答を繰り返しながら、この土地に身を置いて制作することの意味を追求し続けてきた羽生氏。
その作風の移り変わりや表現の深まりを感じることができる展覧会です。
藤原学芸員曰く「作品世界は彼の弛まぬ努力や表現力はもとより、釧路・道東の変化に富んだ地形や、海霧と乾いた風雪に見舞われる気候、
そこに生きる人々の飾らない姿や温かい心が、育んだものでもあるように感じてならないのです。」
(羽生輝展は12/8まで北海道立釧路芸術館で開催中)

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