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地熱発電(西山 由佳子編) [varied experts]

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この春、釧路管内で数少ない明るい話題といえば、掘削技術者を養成する国内初の専門学校となる「掘削技術専門学校」が白糠町に開校したこと。
掘削は、地熱開発、井戸や温泉の開発、地震計を地下に入れる時にも使われる技術。洋上風力発電でも海底調査に掘削が欠かせず、需要は高まっています。
その中でも最大のニーズは地熱発電。国は「脱炭素社会」の実現に向けて再生可能エネルギーを「主力電源」とする方針で、太陽光や風力、水力といった多様な
再生エネルギーを伸ばしていく必要があります。その中でも地熱発電は「有望株」「切り札」と期待が高いのですが、開発がなかなか進んでいないのが実情。
開発の初期コストが高い、適地の多くが国立公園や国定公園の中にあって開発規制が厳しい、温泉の枯渇を懸念されがちである等、開発が進まない要因は
いくつもありますが、熱源を探し当てる掘削技術者の不足も一因なのです。白糠に開校した専門学校はその技術者を養成し、資源活用につなげることを
狙いとしているそうで、人材不足に悩む業界にとって担い手を育てる「頼みの綱」として注目されているということ。
そもそも地熱発電は、地下深くのマグマで熱せられた蒸気等を生かした発電。太陽光や風力等の再生可能エネルギーと違い、自然条件や天候にされず安定的に発電できる。
しかも燃料費がかからず、一度設置すれば50年は稼働できるため、長期的には発電コストが安いというメリットもあります。
発電の際に生まれる熱水を利用して、ハウス栽培や養殖事業に生かすこともできます。日本は火山国なので、地熱の資源量も世界有数。
それゆえ、国産資源を使える再生可能エネルギーの本命と言われてはいるのです。
ただ、地熱の資源量でいえば日本は米国、インドネシアに次ぐ世界3位ですが、地熱発電容量は2020年時点で世界10位。年間発電量も国内全体の1%に届きません。
これは原子力発電所の1基分に及びません。他の再生可能エネルギーと比べても、太陽光の発電容量が8年で8倍になったのに、地熱は2割ほどの伸びにとどまっています。
地熱開発が進まない要因の一つには技術者不足も。日本地熱協会によると国内では近年、地熱発電のため年間約50本の井戸が掘られている一方、技術者不足ですぐには受けられない発注も同じ程度あるそうです。実は国内の地熱発電は1970年代のオイルショックをきっかけに80年代まで開発が盛んでした。
日本は掘削技術の先進国となり、海外の開発現場で日本の技術者が掘削を指導してきましたが、国が原子力政策をより重視し予算を振り向ける様になると地熱開発は停滞。
90年代以降は「冬の時代」に突入、技術の伝承が難しくなったのです。今の技術者は65歳以上が中心。これまでは海外から技術者を招いて穴を埋めてきましたが、
コロナ禍でそれも厳しくなり、人材育成はまさに緊急課題です。ですから、白糠に開校した専門学校にかかる業界からの期待の大きさが分かります。
実際、開校にあたって掘削関連企業から機材の寄贈が相次いでいます。学校のシンボルとして校庭に設置された高さ43メートルの掘削機のほか、
10トントラック計20台分の関連機材が無償で提供されたそうです。
出遅れている日本の地熱開発ですが、地熱の魅力は大きいので、普及に向けて国が規制緩和や支援制度の拡充を進めたり、調査技術が進歩したりして2010年代半ば以降、
少しずつは動きだしています。2019年、国内では23年ぶりとなる出力1万キロワット以上の大型地熱発電所が秋田県湯沢市で稼働しました。
道内でも40年ぶりとなる大型発電所が今年、稼働します。オリックスが函館に建設した南茅部地熱発電所。火山が多い北海道は地熱の潜在能力が高いとされ、
ここ10年では地熱調査の助成件数の約1/4を北海道が占めています。釧路管内弟子屈町は温泉地と協力しながら大規模地熱発電の導入を目指し掘削調査等を進めています。

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