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ストーリーからおう〜12月の巻絹(中西 紗織編) [varied experts]

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IMG_6209.jpg今回は《巻絹》をご紹介いただきました。巻絹とは、軸に巻いた絹の反物のこと。
その巻絹がタイトルとなっている能で、物語で大きな鍵を握るのは和歌。和歌の徳を讃えた、素朴で風流な内容が魅力です。
最後の場面で巫女(シテ)巫女の舞う《神楽》という舞も神秘的で美しい。
能《巻絹》・・・作者不詳
登場人物・・・・・シテ:巫女
         ツレ:都の男
         ワキ:勅使
         アイ:勅使の下人
場所・・・・・紀伊の国 熊野本宮(現在の和歌山県田辺市本宮町)
季節・・・・・12月 曲柄:四番目(略三番目)(略初能)    
●勅使(ワキ)登場、帝の見た霊夢のことを語る:ワキの勅使が登場し、「わが君あらたなる霊夢をこうむり給ひ」と、帝が霊験あらたかな夢をご覧になり、千疋の巻絹を
熊野権現様に納める様にお告げがあったと。帝の命で諸国から続々と巻絹が集まっているのに、都から来るはずの巻絹の到着が遅れている、どうした事かというのです。
●都の男(ツレ)登場:そのころ都の男はまだ旅路の途中なのでした。この都の男は、直面と言って面をかけない、素顔の役として登場します。
巻絹を運ぶ男は、険しい旅路を進み、山また山を越えて熊野権現へと道を急ぎます。そしてついに目的地に到着し、「まづまづ音無の天神へ参らばやと思ひ候」と、
音無天神、つまり熊野本宮の東北にあった地主権現、その社の守護神が祀ってあるところに参拝。折から、「冬梅の匂ひの聞え候」と冬梅の香りが香ってくるので、
思わず興に乗り心の中で一首の歌を音無の天神に手向けるのでした。
●勅使(ワキ)が勅使の下人(アイ)に命じ、都の男(ツレ)に縄をかける:参詣を終えた都の男は、「都より巻絹を持ちて参りて候」と待ち受けていた勅使の下人に声をかけますが、なんと期日は過ぎてしまっていたのです。都の男一人が遅刻して、千疋の巻絹がすべてそろうことが間に合わなかったために、勅使は怒り、罪の報いを受ける
ようにと、下人に命じて男を縄で縛りあげてしまうのでした。
●巫女(シテ)登場:そこに呼びかける声がします。巫女が登場し「なうなう」と呼びかけ、なぜその者を縄でしばるのだと問いかけます。
「その者はきのう昨日音無の天神にて一首の歌を詠み、我に手向けし者なれば」と。その歌のおかげで私は神の身の苦しみを免れることができたのだから、
早くその縄を解きなさいと、巫女がだんだんと神がかりして言うのです。でも、勅使たちが取り合わないので、巫女は縄を自ら解いてやろうと、都の男に近寄ります。
●疑う勅使、巫女が真実を明かす:巫女が再度、この男は音無天神にて一首の歌を詠み私に手向けた者だからはやく縄を解きなさいと言います。
ところが勅使は直ぐには信じない。。。巫女は、神慮を偽りだと言うのかと、怒ったような様子になり真実を正します。
まず、縛められている男に命じ、心の中で詠んだ歌の上の句を述べさせます。上の句は、「音無にかつ咲き初むる梅の花」と。すると即座に巫女が下の句を続けます。
「匂はざりせば誰か知るべき」と。巫女は音無天神の神慮の正しさを示すのでした。男が心の中で詠んだ歌が、しっかりと天神に届いていたので、疑いは晴れて男は釈放。
●巫女(シテ)は和歌の徳を讃えて謡い舞う:巫女に憑依した音無天神は男が手向けた歌に感謝し和歌の徳を讃えます。能では、和歌の功徳を讃える物語が時々出てきます。
音無天神が乗り移った巫女は、神代の時代から宇宙の真理が和歌に詠まれた言葉の中にあるという様なことを色々な故事をひきつつ語っていきます。
●巫女の《神楽》天神は天へ帰る:巫女は祝詞を唱え、金剛界・胎蔵界という曼荼羅図を、この地の霊山にあてはめ、吉野の山は金剛界、熊野の山は胎蔵界であり、
ここに浄土があり、ありがたいことだと言い、《神楽》という舞を舞います。《神楽》は、女神が憑依した巫女が舞う神聖な趣の舞。
小鼓という楽器が「プ、ポ、プ、ポ」と連続する「ノット」という手組を打つのが特徴的。《神楽》を舞い、激しく狂乱して巫女は舞います。
「九十九髪の」という言葉が出てきたり、神様の「神」と髪の毛の「髪」がかけられていて、巫女の髪の乱れが描写されたり、詞章には、「空に飛ぶ鳥の、翔り翔りて地にまた躍り、数珠をもみ袖を振り、挙足下足の舞の手を尽し」とあり、激しく飛んだりはねたりして舞い狂うような神がかりの様子が伝わってきます。
ついに「これまでなりや。神は上がらせ給ふと言ひ捨つる。声のうちより狂い覚めて また本性にぞなりにける」と、これがこの能の最後の詞章。
音無天神は天に上り、巫女は本性に戻り、めでたしめでたしとなるのでした。

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