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ストーリーからおう〜2月の胡蝶(中西 紗織編) [varied experts]

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今回は《胡蝶》。観世流の謡曲季節表では二月の能で、早春の梅の花の景色から始まります。
シテは胡蝶、つまり蝶々。最初は女の姿で現れ、実は私は胡蝶の精霊ですと正体を現し、こう言います。春夏秋と花に縁の深い身であるのに、まだ寒さの残る早春に咲く
梅の花には縁がないと嘆くのですが、ついに梅の花と出会うことができ、喜びの舞を舞うという物語です。能にもこんなにファンタジックなお話があるのです。
とてもシンプルで優雅な物語で、視覚的にも大変美しい能。
能《胡蝶》・・・作者 観世小次郎信光
登場人物・・・・・前ジテ:里の女 後ジテ:胡蝶の精
         ワキ:旅の僧  ワキツレ:同行の僧(2、3人) アイ:所の者
場所・・・・・京都 一条大宮
季節・・・・・二月(観世流謡曲季節表より)(曲柄 三番目 鬘物)    
●作り物が運ばれる:囃子方と地謡方が着座すると、後見が舞台中央、前の方に紅梅の作り物を運び込む。謡本には「梅立木丸臺」とあり、「直径三尺の丸臺輪に、梅花の木を樹て、舞臺正面先に出し据う 他に用いず」と説明があります。この能だけに使われる作り物。
●旅の僧(ワキ)、その従者の僧たち(ワキツレ)登場:春ののどかな風景の旅の道。「これは和州三吉野の奥に山居の僧にて候」私たちは吉野の奥に住む僧です。吉野の高い山の方にはまだ雪が残っているけれど、「花の都」の名所を見物したいと思ってやってきましたと。一行は一条大宮に到着し、古い宮に今を盛りと咲く見事な梅の花を見つけ、しばらく眺めましょうと立ち寄ります。
●里の女(前ジテ)登場:その土地の人らしい女、里の女が現れ、僧たちに呼びかけ、古い宮の由緒を語り始めます。さらに、女は、「ここは、身分の高い方々が春ごとに訪れ花を眺めながら『詩歌管絃の御遊を催し』という場所ですから、よく心にとどめてご覧なさいませ」と言います。
●女は正体を明かし、昔語りをして姿を消す:僧は、由緒ある花の名所を見ることができて嬉しいことと言いつつ、「さてさて御身は如何なる人ぞ。御名を名のり給ふべし」と女に問いかけます。なんだか不思議な女だなあと思うのです。女は直ぐにはそれに答えず、歌で返します。「梅が香に昔を問へば春の月答へぬ影もわが袖に」という古歌を引きます。この歌は新古今集の藤原家隆の歌で「梅が香に昔を問へば春の月 答へぬ影ぞ袖にうつれる」「梅の香りに誘われ、昔を春の月に問えば、答えはなく、
月の影のみ袖に映るよ」この歌の様に私も答えないというわけです。僧と問答を重ねるうちに、女は「まことは我は人間にあらず」胡蝶の精霊なのですと正体を明かし、「深き望みのある身なり」と言います。その望みとは何かというと。。。胡蝶は、昔から梅の花に縁がないことを嘆き、春が来るごとに悲しみの涙を流していたと。だからこのように姿を変えて、御僧に言葉を交わさせていただいたのです。有難い法華経を読んでいただき極楽往生をさせていただけるよう、望みをかなえていただけるよう、
お願いいたします。そう女は僧に頼み、私は夢の中に必ず姿を現しますからと言って姿を消します。[中入り]
●所の者(アイ)の語り:所の者が登場し、僧に話しかける。僧に問われるままに、このお宮や梅の花のいわれについて語ります。
●胡蝶の精霊(後ジテ)登場:僧はお経を読んで、月の光に映える梅の花の下で、夢に出ると約束した胡蝶に言われた通り眠りにつきます。すると、夢枕に胡蝶の精霊が「ありがたやこの妙典の功力に引かれ」と、本当に現れるのです。後ジテの胡蝶の姿でひときわ目につくのは、冠。そして、装束で特徴的なのは、長絹という着物。
●中ノ舞 夜明けとともに胡蝶は消える:胡蝶の精霊は梅の花の間を飛びまわり、喜びの舞を舞うのでした。最後の場面の見どころとして《中ノ舞》という舞が舞われ・・胡蝶の望みがかなった嬉しさが表現されます。胡蝶は僧の有難いお経のおかげで望みがかない成仏できる喜びを語り、「歌舞の菩薩の舞の姿」を見せながら、明け行く
空の、春霞に紛れて消えていくのでした。めでたしめでたし、というエンディング。

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