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クリスマス・イブの思い出(満澤 巨彦編) [varied experts]

写真1:揚収#57934;.jpg写真2:#57934;.jpg写真3:ファックス.jpg
今年3月、国産のH3ロケットの打ち上げが、残念なことに失敗したことを覚えている方は多いと思いますが、実はその前に開発され現在も使われているH2Aロケットの前のH2ロケットも種子島宇宙センターから打ち上げられ、エンジンのトラブルで落下したことがありました。1999年11月15日の出来事。その場所は小笠原諸島北西側の水深約3000の海域。「当時、私はディープトゥ、深海曳航式のカメラやソナーを使って深海調査に深く関わっていました。2000年1月の正月明け早々にはマリアナ海域での海底熱水活動域で調査船<よこすか>でのディープトゥ調査が計画されていたので、その準備を始めたタイミングで打上失敗のニュースが入ってきました。」当時JAXAの前身の宇宙開発事業団NASDAからJAMSTEC上層部に調査依頼があり、急遽、無人探査機<かいこう>を搭載している<かいれい>を使った探査を行う事になったそうです。落下の原因を究明するためにはロケットのエンジン本体を見つけることが必要で、探査のターゲットはエンジン本体。エンジン本体はそれほど大きなものではなく軽自動車位の大きさで頑丈に作られているので、本体がバラバラになることはないだろうとの事。<かいれい>は慌ただしく準備をして落下から4日後の11月19日に出港。<かいれい>の調査ではエンジンの一部が見つかったものの、予定していた日までにエンジン本体が見つからなかった事から、探査は<よこすか>ディープトゥに引き継がれることに・・。「つまり私がもともと乗船するマリアナ海域の調査の前に、エンジン探査の2次調査を実施するという事に・・。予定では正月明けにグアムで乗船することになっていた事と、エンジンの探査航海の責任査が上司だった事から、急遽、海外出張中だった私も呼び戻され乗船することになり、航海が長引けばそのままグアム入港でマリアナの航海になると。乗船者は皆パスポートを持って年越し覚悟で乗船しました。」
<よこすか>は12月19日に出港。海域までの移動中、大しけで激しく揺れて、揺れの中で調査準備を行いひどい船酔いになったことを覚えていると満澤氏。最初は海底の地形や起伏を広範囲で調べることができるディープ・トゥソナーによる調査を実施。このソナーは音波を使い、一定の範囲の海底表面の音波の反射強度を調べることができるもの。人工物や硬い岩などは反射強度が強くなるので、人工物や海底地形等の探査に使われるそうです。このサイドスキャンソナーでロケットの部品らしき反射が確認されたら、カメラに切り替えその反射を目視で確認し、違った場合は、再度ソナーで次の候補範囲を探査してカメラで確認するという方法を繰り返したそう。調査は24時間体制、満澤氏は夜班の班長。班長はディープトゥの観測状況をブリッジで首席と船長に報告するのが役目。詳細な観測データはブリッジでは見る事ができなかったため、怪しい反射が出るたびに、データを記録している格納庫まで4階分ぐらいの階段を降りて記録を確認する必要があったそう。距離にすると40~50m位。格納庫の担当者は満澤氏が降りたり登ったりするので、わざと適当な反射をみて「満澤さん、エンジンらしき反射でています」と呼び出され、反射を確認して大きさが大きすぎるとか、これは地形だとか、判断することに。画像は見慣れていないとなかなか解釈が難しく、毎回呼び出され確認していたそうです。何回か繰り返されいい加減頭にきていた時に「満澤さん、今度は絶対に本当です。エンジン見つかりました。」というので格納庫に・・・。反射範囲が広かったので、これは違うと・・。ただ、その横にシミにように小さな反射があったので、このほうが怪しいので、マークしておいてと指示してブリッジに。「このような状況を繰り返していましたが、例の格納庫に呼び出されて、これが怪しいと言ってマークしていたエコーが実はエンジン本体だったのです。」12月24日、クリスマスイブの昼前に、ディープ・トゥカメラで水深2913mでエンジン本体が見つかったのです。その後、年明けに調査船<なつしま>と無人探査機<ドルフィン3K>により再度メインエンジンの海底調査が行われ、最後は、民間のサルベージ会社によりエンジン本体が引き揚げられたそう。<よこすか>によるエンジン発見は、NHKのプロジェクトXで取り上げられました。「私を格納庫に毎回呼び出した研究者、今は大学の教授になっていますが、調査中『お前はオオカミ少年か』と言われていたことから、放送の中でも<オオカミ少年>と紹介され、本人は折角テレビに出たのに家族に言えないとボヤいていました。」
※尚、写真は JAMSTEC 満澤巨彦氏からお借りしました。
写真(左):12月23日朝、ディープ・トゥソナー揚収
写真(中):12月24日朝。ディープ・トゥカメラ投入(この後にエンジン発見)
写真(右):船内に掲示された発見を喜ぶ陸上からのファックス「連日の昼夜を分かたぬ探索作業 誠にご苦労様です。また、今日は折しもクリスマスイブに相応しくロケットエンジン本体の発見の報に接し、・・・」手書きで「ハッピー、ハッピークリスマス大きな大きなプレゼントありがとうございます。・・・」
当時のプレス発表:「よこすか」2次調査:最初の航海で機体の一部が見つかったことから「よこすか」で調査を引き継ぐことになった。
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/1999/199912021/ 〜当初の予定なので出港は横須賀、入港はグアム。ディープ・トゥについても紹介。
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/1999/19991224/ 〜メインエンジンの発見(1999年12月24日 エンジンの画像も見ることができます。)


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