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長期孔内観測点構築(満澤 巨彦編) [varied experts]

1海底に敷設する10kの細径光電気複合ケーブルの展張ボビンの取り付け作業.gif2無人探査機ハイパードルフィン、内側に展張ボビンを抱えている.JPG3光電気コネクタの接続の様子.GIF
4「新青丸」元旦の夕食、最近はわりと質素.jpg南海トラフの海底地震観測の新たな観測点の構築について。
南海トラフはフィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込んでいるプレート境界となっています。このため南海トラフではプレート境界型の地震が90~240年ぐらいの間隔で繰り返し発生。
この海域で発生する地震は海域ごとに東側から東海沖、東南海沖、南海沖、そして日向灘と別れていて、それぞれ別々に地震が発生することもあり、時間を空けて連動して起きる可能性があることがわかっているそうです。このため、JAMSTECではDONETと呼ばれる海底ケーブルを利用した海底地震津波観測監視システムを紀伊半島沖の東南海沖熊野灘から南海沖東側の紀伊水道沖にかけて整備し、完成した後は、陸域の地震観測網とあわせて防災科学技術研究所が運用。「私もこのDONETの運用には今も係わっています。」
海底をボーリングして掘った孔の中に観測装置を設置した観測も3箇所で行っていて、新たに4箇所めの観測地点を設置。より震源に近い場所で観測できることと、海底の流れや海上を航行する船舶などのノイズが減るので、高感度な観測ができるという大きなメリットがあるとのこと。この観測装置は長期孔内観測システム。「今回海底下に設置した長期孔内観測システムは、孔内間隙水圧計と光ファイバー歪計で構成された新型のシステムです。孔内間隙水圧計はすでに設置されている3箇所の孔内観測システムに導入されていて、海底下500mで地層から染み出す間隙水の圧力、すなわち地層に加わる力を測定する装置。光ファイバー歪計は、今回新たに導入された観測装置で、微小な地震から強い地震まで、振動の帯域としては超低周波から低周波の地動をカバーすることができるとおっしゃっていました。
従来の地震計や傾斜計の変わりに光技術を活用し開発された装置で、前の3箇所と同じように、「ゆっくりすべり」と呼ばれる通常検知するのが難しい地震を検知できるので、海底で観測するよりも高感度な地殻変動の観測が可能となるそうです。
この長期孔内観測システムの海底部分には、DONETと接続するためのインターフェイスが設置され、インターフェイスと海底に展開されているDONETのノードと呼ばれるコンセントの役割をする装置とを接続することで、長期孔内観測システムで得られる海底下の観測データをリアルタイムで見ることができるようになると・・・。長期孔内観測システムの設置場所から一番近いコンセント、ノードまでは8~9kmほどあり、その間を直径6mmほどの光と電気の複合ケーブルで接続。海底ケーブルの敷設と接続は無人探査機「ハイパードルフィン」を使って行うとのこと。
「今回は作業開始から終了まで12時間ほどでした。私は陸上で、船からのメールによる経過報告をトラブルが起きないよう祈りながら読んでいました。接続が終わると接続状況の確認のため、すぐに高知県室戸市にあるDONETの陸上局から長期孔内観測システムを起動しデータの伝送、収集を開始。問題なく起動しデータ収集ができるようになりました。現在、データのクオリティチェックなど行なっています。」
今回の観測点は長期孔内観測点としては4箇所目。今までに構築された3箇所は東海沖震源域にあたる紀伊半島の東側にある熊野灘に設置。今回は南海沖の震源域となる紀伊半島と四国の間にある紀伊水道沖に設置。この場所は、ゆっくりすべりの発生が時々確認されている場所。ゆっくりすべりは時にはM6クラスの地震と同規模の歪が我々の知らないうちに解放されることもあるそうです。このゆっくりすべりの発生を把握することは海底の地殻変動の推移を予測する上では非常に重要であると考えられています。「長期孔内観測システムは、ゆっくりすべりのリアルタイム観測が期待されています。今後観測点を増やしていく計画で、さらに西側の南海トラフや新たな観測網の構築が進んでいる日向灘にも設置を予定しています。」
※尚、写真は JAMSTEC 「新青丸」KS-23-J11航海の首席研究者西田周平氏(JAMSTEC海域地震火山部門地震津波予測研究開発センター観測システム開発研究グループ)より提供いただきました。
・写真上(左):広帯域海底地震計(BBOBS)の投入準備:海底に敷設する10kmの細径光/電気複合ケーブルの展張ボビンの取り付け作業((C)JAMSTEC )
・写真上(中):無人探査機ハイパードルフィン、内側に展張ボビンを抱えている((C)JAMSTEC )
・写真上(右):光/電気コネクタの接続の様子((C)JAMSTEC )
・写真下:「新青丸」元旦の夕食、最近はわりと質素・・・と満澤氏((C)JAMSTEC )
参考:富山湾の斜面崩壊(海上保安庁のサイト):https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/post-1066.html
参考:JAMSTECプレスリリース 地球深部探査船「ちきゅう」による長期孔内観測システム観測点の構築
(長期孔内観測システムの概要):https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20231129/
※東北海洋生態系調査研究船「新青丸」によるDONETへの接続:https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20240111/
※地震調査研究推進本部HP:https://www.jishin.go.jp/

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