SSブログ

道東赤潮から2年が経過:最近の研究の進捗(黒田 寛編) [fun science]

20231023-1赤潮_資料1.jpg20231023-1赤潮_資料2.jpg
道東の沿岸で前代未聞の大規模赤潮が発生して早2年が経過。ウニを中心とした漁業被害は90億円以上とか・・・。赤潮の優占種は「カレニア・セリフォルミス」その赤潮が発生したのは2021年秋の道東が日本で初めてでした。今年10月、一つの論文が学術誌に掲載され、今回はその概要を説明していただきました。
「この研究は私のグループの谷内さんという植物プランクトンを専門とする女性研究者が主体的に取り組み、私は研究の方向性を整理して論文化する際のサポート役として参加。今後、道東赤潮の教科書になるような研究だと考えています。」この研究では2015年10月に開始した道東大陸棚域の調査船による観測データを解析。この論文での主な解析の方針は非常に単純で、2015年~2020年10月の状態と、赤潮が発生した2021年10月の状態を比較し、統計的に有意な差があるかどうかを整理。まずは、水深10mから得られた植物プランクトンの種組成データを解析すると、2021年10月はカレニア属が優占する海になっていたことがわかったそうです。それに加えてわかったことは、カレニア属はすでに赤潮発生前年の2020年10月にもかなり僅かながら道東域に分布していたこと。現時点ではカレニア属という大雑把な分類なので、カレニア・セリフォルミスあるいはカレニア・ミキモトイ等かどうかまでは特定できないと。ただ、現在、遺伝子解析を進めているので、今後2020年10月に見つかったカレニア属がカレニア・セリフォルミスかどうかまで特定できる見込みとの事。
次に、海面下10mから得られた植物プランクトンの色素(クロロフィルa)濃度を2015-2020年と2021年10月で比較。海域全体で、2021年10月のクロロフィルa濃度が2.3倍濃度が高かったことが判明。2021年秋の道東沿岸の波打ち際は濃い黄褐色だったので、平年値よりも明らかに大きなクロロフィルa濃度と認識されているそうですが、道東の大陸棚域全体で平均すると、平年値よりも2.3倍程度の差があったということです。
さらに植物プランクトンが光合成に使う栄養、この濃度を比較。海面下10mから得られた栄養塩、具体的には、硝酸塩・リン酸塩・ケイ酸塩の3種類の栄養塩濃度を道東の大陸棚域全体で平均すると、硝酸塩とリン酸塩については、2015~2020年10月と2021年の間に差はなかったそう。一方、ケイ酸塩という栄養塩には顕著な差があり、2021年10月がその他の年よりもたくさん余っていたそうです。つまり、カレニア属は渦鞭毛藻という種類の植物プランクトンで、通常年の秋の道東沿岸では、珪藻という別の種類の植物プランクトンが優占。珪藻はガラス質の殻をもつ植物プランクトンで、ガラス質の殻を作るためにはケイ酸塩という栄養塩が必要になります。しかし2021年10月はこのケイ酸塩が余っていたそうで、それはケイ酸塩を使う珪藻が劇的に減っていたことが原因だったそう。珪藻にも色々種類があるので非常に雑な言い方では、通常よりも2桁少なかったそうです。要するに、本来の道東海域「珪藻の海」が、2021年は「カレニア属の海」にかわり、非常に小型の植物プランクトン(ピコ植物プランクトン)にまで影響が及んでいたとおっしゃっていました。さらにより詳しくデータを解析すると、2021年10月、場所によっては、硝酸塩やリン酸塩(栄養)が完全に枯渇していないにも関わらず、珪藻やピコ植物プランクトンの数が少ないことが判明。「まだ、仮説の段階ですが、二つの可能性を考えています。一つはカレニア属がピコ植物を食べているのではないか?という可能性。カレニア属は植物プランクトンですが、混合栄養といい、光合成もするけど、動物プランクトンのように小型の植物プランクトンを食べる可能性があり、カレニア・セリフォルミスについては未だ賛否両論ありますが、この可能性が捨てきれない・・・。
もう一つの可能性。アレロパシーといって、カレニア属が何らかの化学物質を出すことにより、他の植物プランクトンの増殖を抑制している可能性があるという事。実際に培養実験を行って確かめてもらっているところですが、アレロパシーは十分にありうる可能性だというのが私の印象です。」
いずれにしても、この研究を実施したことで、想定外の、むしろわからないことが増えてしまったそうです。それらを明らかにするための芋づるをまた新たに引っ張り始めているという状況が現在とのことでした。
※写真は黒田寛氏にお借りした資料です。
※音声はこちら・・・https://open.spotify.com/episode/6JSdidkDku62GKuhAAFIkv

Facebook コメント