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海からみる湿原の役割:道東の海を潤す湿原河川(黒田 寛編) [fun science]

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釧路から根室へ広がる海岸線のすぐ近くには、いくつもの湿原が広がっています。釧路湿原、別寒辺牛湿原、霧多布湿原、風連湖や春国岱、根室半島湿原群等々・・・。
自然科学的にも本当に稀で貴重な地域であり、様々なタイプの湿原が点在していて、湿原を研究する専門家にとっても、釧路から根室までの国道44号線は興奮の連続だと。
また、湿原という保水性の高い土壌に希少な動植物が生息していたり、渡り鳥の飛来地や中継地になっていたり、面積はそれほど広大ではなくても、湿原は陸上生態系に
重要な役割を果たしていると考えられています。さらに、湿原は海の生態系にも影響を及ぼしています。
例えば、海水や汽水の湿原域は、アサリやシジミなどの二枚貝の重要な生育場所であることが知られている一方、この様な貴重な干潟域が人工的な埋め立て等により
どんどん日本から失われている現実があります。ただ、わかっていないこともたくさんあるそうです。
例えば、釧路川や別寒辺牛川のような湿原河川を通じて海に流れ出た淡水やその中に入っている栄養物質が、海、特に沿岸域の海洋生態系にどのような影響を、あるいは、どれほどの影響を与えているか?これは定量的に理解されていないとおっしゃっていました。
釧路湿原や別寒辺牛湿原が道東沿岸の海の生産性に影響しているのかどうかすら、確かな数値として未だ誰も示せないということ。
将来、この様な事がわかれば、湿原の新たな価値を海の生産性からも裏付けることができ、湿原を保全するための重要な方策や提言ができると期待をもっていると黒田氏。
そこで、2010年代の中頃から彼は道東湿原域が海に与える影響を調べるため、北海道大学をはじめとする全国の研究者と共同研究を始めているそう。
ほぼ手弁当で始めたそうですが、昨年度から比較的大きなプロジェクトが始まり、本格的に調査を開始。今までに分かっていることを概説していただきました。
まず、湿原を流れる河川の窒素やリンなどの栄養濃度はその他の河川に比べて決して高いわけではないという事。
窒素やリンは、海の植物プランクトンや海藻が増殖・成長するためには欠かせない栄養。窒素関連の栄養で硝酸塩という栄養物質があるのですが、その濃度は十勝川が90だとすると釧路川は20ほど。これは湿原河川の栄養濃度が低すぎるというのではなく、海の生産には十分な量。むしろ十勝川の栄養が十分すぎるという理解が正しいと。
一方、湿原河川で圧倒的に高いのが溶存鉄の濃度。湿原の周辺を散策すると、赤茶けた錆の様な油膜のような水たまりをご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
これは湿原からは大量の鉄が溶けだしている証拠で、このため湿原河川の溶存鉄濃度は非常に高くなるそう。
別寒辺牛川の河川水には、世界の河川平均の30~80倍の溶存鉄が含まれていることがわかっていると。ただ、この大量の溶存鉄は川から海に出て、塩分のある海水と
触れたとたんに海水から一旦消えるそう。これで鉄の運命は終わりではなく、海底に落ちた後じわりじわり堆積物から海水に鉄が溶け出るような過程を経て、
海の植物プランクトンや海藻に使われると考えられているそうです。
さて、道東沿岸域に影響を与えている湿原は道東の湿原だけではありません。道東沿岸にはアムール川の影響を受けた海水もやってきます。
アムール川はロシアと中国の国境付近を流れる大きな川、オホーツク海の北西部に河口があります。アムール川から流れ出た水や栄養物質が一旦オホーツク海に流出し、
その後サハリン東岸に沿って南下し、さらに北海道沿岸まで南下した後、北方四島や千島列島の海峡を通じて太平洋に漏れ出した海水の一部が道東沿岸までやってきます。
ですから、道東沿岸での海の生態系と湿原河川の影響を調べる際は、道東周辺の湿原河川だけではなくアムール川を含んだ『湿原河川と海のつながり』を調べる必要があるということなのだと。「湿原河川と海のつながりを明らかにする新しいプロジェクトは始まったばかりで、これから4年続きます。」
※写真は黒田寛氏にお借りした資料です。
※音声はこちら・・・https://open.spotify.com/episode/2Qb1RNUgxCdgOenmmJJJ2w

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