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飽和潜水〜その2:体験談等〜(満澤 巨彦編) [varied experts]

写真1:飽和潜水実験、体の状態をモニター中.JPG写真2:潜水準備.JPG写真3:水中エレベータ(SDC)からのロックアウト.JPG写真4:カップアイス(圧力で3分の2ぐらいになっている).JPG写真5:食事、カップ麺.JPG写真6:チャンバー内.jpg
写真7:長根さんの記事.jpgJAMSTECで実際に水深300mの飽和潜水技術開発に参加した満澤氏と同じ職場の長根浩義さんの現場の話をご紹介。
飽和潜水で使う「呼吸する気体」高圧化では人体が吸収する気体の量が増えるので空気とは成分を変える必要があるそう。通常の空気は8割近くが窒素、2割が酸素。高圧で窒素を吸うと、個人差はあるもののお酒に酔った症状がでて判断ができなくなることから、窒素の変わりにヘリウムを使うそう。
また酸素の割合が空気と同じだと、体内に吸収される酸素の量か相対的に増えてしまい酸素中毒になってしまうので、潜水する深度に合わせて酸素の割合を少なくした気体を使う。飽和潜水中は皆ドナルドダックみたいな声で会話することになるそうです。海中作業時は、海底の水温は低いので、船上から潜水用のエレベータを経由して、アンビリカルホースと呼ばれるホースで呼吸するための気体や保温用の温水が潜水服に直接供給。アンビリカルとは「へその緒でつながれた」という意味があるので、まさに海底で作業するダイバーにとっては命綱。特に水深300mでは海底は昼でもまっくら。照明が必要なことと、海底が泥だと濁って視界が悪くなりやすく作業が難しくなる要因がいくつかあります。海底での作業が終わり、その場所と同じ気圧に保たれたSDCと呼ばれる水中エレベータで船上のチャンバーに戻るそう。
圧力が高くなると呼吸する気体が重くなったように感じるそうです。咳もしづらくて普通にするようにはできないとのこと。首を絞めた状態で咳をする感じ・・・と言う表現で教えてくださったそうです。
また、ヘリウムガスは窒素よりも熱の伝わり方が速いため、体で気体に触れている部分は外に熱を放出しやすくなり、一方で気体に触れていない部分は熱がこもる状態になるので、仰向けに寝ていると体の表側は冷えて、背中側は汗をかいている状態になるそうです。周囲の温度変化を受けやすく、すぐに寒くなったり暑くなったりするので、室温の管理も重要になるとのこと。この為快適な温度は少し高めで28℃から30℃ぐらい。
「長根さんが300mの実験に参加した時は、チャンバーと呼ばれる生活空間がマイクロバスより少し大きいぐらいの円筒形の居住施設。6畳ぐらいと聞きましたが、いずれにしてもかなり狭い空間に6人が入り24日間を過ごしたそうです。チャンバー内にはトイレとシャワーは設置されていますが、かなり過酷な環境。チャンバー内での生活では食事が唯一の楽しみ。特にアイスクリームが高圧により空気の部分がなくなるため2/3位になり、濃厚でとてもおいしかったそう。食事は船で作った食事で、食事を供給するためにはサービスロックと呼ばれる直径が約40cm、奥行きが約50cmの小部屋があり、圧力をその都度、中と外の圧力に変えることで提供されるそう。チャンバー内の気圧は高いので、内側と外側の扉が同時に開かないような構造になっているそうです。また、常に圧力がかかっているため、チャンバー内は24時間モニターされていて、特に重要なのは気体の成分比でそのバランスが崩れないように常に監視制御。音の聞こえ方も変わるそうです。人の耳は、左右の耳で聞いた音の微妙なずれで、音が伝わってくる方向を知るのですが、圧力が高くなると音の伝わる速度が速くなるので、左右の耳で聴き分ける微妙な差が小さくなり、音がどこから聞こえて来るのか、その方向がわからないそうです。」
人間をその環境の圧力に順応させるということから、ダイバーはもちろんですが、そのシステムを管理する運用体制も非常に重要。「ダイバーは最低限の生活ができるチャンバーの中で、数日から長い時は数週間をすごさなければならず、体力だけではなく強靭な精神力が要求される潜水技術ということを理解いただけたのではないかと思います。JAMSTECでは300mの飽和潜水技術の開発は終了し、その技術は民間に移転しています。長根さんと一緒に300mの実験に参加した方の中には民間で飽和潜水に係わっている方が現役でいるそうです。」
※尚、写真は JAMSTEC 満澤巨彦氏からお借りしました。なお、現在行われている実際の作業では体にセンサーをつけることはないそうです。
・写真上(左)は飽和潜水実験、体の状態をモニター中(提供:JAMSTEC長根浩義氏)
・写真上(真ん中)は潜水準備(提供:JAMSTEC長根浩義氏)
・写真上(右)は水中エレベータ(SDC)からのロックアウト(提供:JAMSTEC長根浩義氏)
・写真下(左)は船ででる定番のカップアイス(圧力で2/3位になっている)(提供:JAMSTEC長根浩義氏)
・写真下(真ん中)は食事。カップ麺のカップが圧力で縮んだため中の麺が飛び出している(提供:JAMSTEC長根浩義氏)
・写真下(右)はチャンバー内の気圧が高いので、食事など物の出し入れはサービスロックを使う。(提供:JAMSTEC)
そして、長根さんの記事(提供:JAMSTEC)(Blue Earth, 2000 通巻49号, p28-29)
https://www.godac.jamstec.go.jp/doc_catalog/view/metadata?key=be49_all&lang=ja
参考URL:https://www.jamstec.go.jp/j/pr/blueearth/

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