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バーチャルな粒々流しで海の生物を科学する-粒子追跡02-(黒田 寛編) [fun science]

スケトウダラ粒粒流しの成長.jpgスケトウダラ粒粒流しの例.jpg
北海道周辺に生息するスケトウダラ太平洋系群に粒粒流しを適用した事例について。主に冬の噴火湾周辺で産卵するスケトウダラのグループをスケトウダラ太平洋系群と呼んでいるそうです。身はスリミに加工され竹輪などの練り物になり、卵は明太子やタラコとして利用されます。「このスケトウダラ太平洋系群の資源変動要因を明らかにするために、もう15年以上、粒粒流しを用いた研究を行っています。私たちが注目しているのは、スケトウダラの卵から仔魚の時期。非常に遊泳力が弱い時期になり、基本的には泳げません。興味深いことに、スケトウダラの親は大陸棚の底付近に生息しているため、底魚と呼ばれていますが、卵や仔魚の時期は海面付近に浮かんで生活します。ですから卵や仔魚は、海面付近の流れや水温による影響を強く受けるのです。そして、仔魚の成長が悪いと、その年に生まれたスケトウダラ太平洋系群の数は少なくなるという関係がすでに知られています。ですので、ある年産まれのスケトウダラの数の変動を考えるにあたり、ある年に生まれた卵と仔魚の流され方と流される間の成長ならびにその要因を研究することになり、<粒粒流し>をつかった研究を使宇野です。」
一般的な粒粒流しでは単純すぎてうまくいかない部分があり、2つ工夫したポイントがあるそうです。
一つ目は卵や仔魚が現実的な深度を流されるようにしたこと。具体的には卵や仔魚の浮力を粒粒流しに導入。卵や仔魚と海水の間に密度差があることで浮力が働き、この効果を調節することでバーチャルな卵や仔魚(粒粒)が流される間の深度を調節。一方、この浮力の効果を考慮しないと、卵や仔魚がとんでもない水深に沈んでいくことがわかり、野外の観測結果とは全く一致しなかったと黒田氏。
もう一つの重要な工夫は、黒田氏の粒粒流しでは、スケトウダラの卵や仔魚が海流によって流されながら経験した水温によって成長の速さが変わるという計算が含まれていること。ここで重要になるのが、仔魚が経験した水温によりスケトウダラ仔魚の成長の速さが変わるという法則をどのように準備したのかということ。
「天然の仔魚は僅か数cm以下で、小さすぎて経験水温を調べるための水温計なども付けることができないので、野外の調査からは水温と成長の間の関係を調べることができません。そこで、飼育実験といって、スケトウダラの仔魚を人工的に水槽で飼育してその成長の速さを調べてもらいました。まず、スケトウダラの親を活かした状態で捕まえてきて、水槽で飼育し、その親に卵を産ませ、そこから孵化して生き残った仔魚を異なる水温で飼育。その成長を調べることで水温と成長の間の関係式を作ってもらいました。ちなみに、この飼育実験を始める前までは、人工的に、スケトウダラに卵を産ませて、卵から仔魚を孵化させて成長させたという事例がなく、本当に難しい課題で下。ところが、同じ研究所の飼育のプロが参加し一瞬でこの問題を解決、かなり画期的なことでした。」
粒粒流しに、浮力の効果を入れたり、飼育実験に基づいた水温―成長の関係式を入れたりすることで、10年以上の歳月を費やし、できるだけ確からしいスケトウダラ太平洋系群の粒粒流しの第一版が昨年度にやっと完成。この粒粒流し、正確には「スケトウダラ太平洋系群の個体ベースモデル」と言うそうです。
これを使い、年によって変化する仔魚の流され方、成長/体長と親の量(資源量)との関係が、これまでよりも、よりリアルに定量的に理解できることは大きな研究の進展になっているそうです。黒田氏曰く「バーチャルな粒粒流しは、海のシミュレーション、野外調査、飼育実験をうまく融合できる研究手法になり、多くの魚種でよく似た取り組みが進んでいるというのが現状です。」ということでした。
※写真は黒田寛氏にお借りした資料です。
※音声はこちら・・・https://open.spotify.com/episode/59pOZk4UMH8xbMDyAzS8Hb

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