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キタサンショウウオの冬の乗り切り方(照井 滋晴編) [nature treasure]

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キタサンショウウオのような両生類は、こんな寒い時期にはまったく動かず、というよりは動けず・・・じっとして春の訪れを待っています。
では、どんなところでじっとしているのでしょう?「 過去の観察記録では、ヤチボウズの中や防風林のコンクリートブロックの下、大きな石の下、大きな倒木の中や下、ヤチハンノキ林の根元などと報告されています。」 照井氏は10年以上前、教育大学の後輩と一緒にキタサンショウウオに発信機をつけて、その発信機から出る電波を頼りにサンショウウオを探すという研究をしていたことがあるそう。その際にヤチボウズの中に入り込んだ越冬中かな?と思われるキタサンショウウオを確認したそうです。ヤチボウズの中とは言え、確実に氷点下まで温度が下がるのに、よく生きていられるものだと思った記憶があると照井氏。
実はそれはいらぬ心配で、キタサンショウウオを含む両生類は意外に寒さに対する抵抗力をもっているそうです。キタサンショウウオは日本よりも北に位置するロシアにも広く分布していますが、当然ロシアの冬は日本よりも厳しいもの。ロシアでの研究成果ではキタサンショウウオは-50℃もの低温下でも生存する能力を持っていることが明らかになっているとおっしゃっていました。
では、なぜそこまでの低温に耐えることができるのでしょう?例えば哺乳類のヒグマの場合、冬になると冬眠穴の中に入ってあまり動かずにエネルギー消費を抑えて冬眠します。冬眠中は飲まず食わずで心拍数や呼吸数を低く保ち、体の脂肪を代謝しながら過ごすのです。この時のヒグマの体温は通常の状態よりも4~5℃程度下がるだけで、32~33℃をキープしているそうです。これが可能なのは、ヒグマが高度な体温調節能力がある生き物だから。キタサンショウウオなどの両棲類は体温が外気温に左右されてしまうので、外気温が氷点下まで下がればそれに応じて体温も低下します。そして、体温が0℃以下まで下がれば体内の水分が凍り始めてしまうはず。でも、実際にはそうはならないのです。「そのメカニズムですが・・・ まず、キタサンショウウオは冬に向けて肝臓でグリコーゲン(糖質)を合成します。越冬場所の温度が氷点下まで下がった時、このグリコーゲンは、グリセロールという物質に変化して、細胞の内部を含む体内のあらゆるところに浸透。これがとても大事。
普通の水は0℃以下で凍結。ですが、塩を混ぜた水は0℃では凍結せず、もっと温度を下げなければ凍結しません。糖分も同じ働きをするそう。体内に糖分を浸透させることで、体内の水分は不凍液のようになり、キタサンショウウオの体内が0℃以下に下がっても凍結しない状態になるのです。その結果、細胞の縮小と死滅を防がれ、-20℃、-30℃の寒さでも体内を凍結させずに生命を維持することができるようになり、釧路湿原の寒い冬をやり過ごすことができるということ。
ちなみに釧路周辺にも分布していて、日本でポピュラーなアマガエルも凍結に対する抵抗性を持っていることが研究の結果明らかになっているそうです。「静岡大学で耐寒性を確かめる実験が行われました。アマガエルを-40℃で6時間凍結させた後、室温で1時間解凍した場合にどれくらいの個体が生き残るかというもの。結果としては、80%以上の個体が生き延びたのです。アマガエルがキタサンショウウオのような凍結耐性を有する種であることが明らかになりました。そのメカニズムは、キタサンショウウオと同じで、血中のグルコースやグリセロールの濃度が高まり、血中糖度が上がることで不凍液のような役割を果たし、冬期の氷点下の環境をじっと耐えることができるようになるのです。」同じ機能を持つ両生類は海外でも確認されていて、両棲類の寒い冬の乗り切り方としては一般的な方法のようです。ただ、中には冬越しをできずに死んでしまう個体もいるそうで、やはり寒い冬というのはキタサンショウウオにとっても重大な試練なのだろうと照井氏はおっしゃっていました。
※写真は照井滋晴氏からお借りしました。
※音声はこちら・・・https://open.spotify.com/episode/1AyDsyIb3yZhdtwfwE1asy

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