SSブログ

能の台詞〜擬音語・音の表現etc.(中西 紗織編) [varied experts]

IMG_9170.jpgIMG_9171.jpgIMG_9172.jpg
IMG_9173.jpgIMG_9174.jpgIMG_9175.jpg
今回は、耳に残るちょっと気になる台詞、音の表現、擬音語の面白さが活きている台詞などについて。台詞の場面を中心にご紹介。
●《清経》
 シテ:平清経 ツレ:清経の妻 ワキ:淡津三郎 
「船よりかっぱと落ち汐の」〜世阿弥作の《清経》という能の最後のほうに出てくる台詞。平清経、その清経の亡霊が妻の夢に出てきて無念の最期を語り、念仏によって成仏するという物語。
清経が最期を覚悟し、腰にさしていた笛を吹き、念仏を唱えて船から飛び込む・・その音や状態を「かっぱと落ち汐の」と表現。この台詞の前後は、「南無阿弥陀仏 弥陀如来 迎へさせ給えと ただ一声を最期にて 船よりかっぱと落ち汐の 底の水屑と沈み行く憂き身の果ぞ悲しき」。
この「かっぱ」は一種の擬音語で、妖怪の河童ではありません。耳で聞いた音から想像されるイメージではユニークな感じさえしてしまいます。
●《松虫》
 前ジテ:男 後ジテ:男の霊 前ツレ:男(三人) ワキ:酒売りの男 アイ:里人
「きりはたりちょう」〜現代人の私たちはめったに耳にしない言葉。能では《松虫》や《錦木》、《呉服》などに出てきます。いずれも、その前後に「虫の音」とか「機織る音」などの言葉が見られると。
能《松虫》は、松虫の音に今は亡き友を偲ぶ、物寂しい物語。能の最後の場面に「きりはたりちょう」が出てきます。その前後には「面白や千草にすだく虫の音の 機織る音の」そして後ジテが「きりはたりちやう」と言うと、地謡が「きりはたりちやう」と繰り返す。《松虫》のこの場面は謡のリズムが特徴的。「(ン)きーりはたり ちょおーおーー」のように。仕舞の場合「きーり」で扇を二回打合せて「はたり」で左・右・左と足拍子を踏むという独特の所作があるそう。音楽的なリズムの要素にも注目してこの能の「きりはたり……」を聞くと面白いかもしれません。
●《羽衣》
 シテ:天女 ワキ:漁師白龍 ワキツレ:漁夫(二人)
「笙笛琴箜篌」〜これは妙なる音楽が聴こえてくる場面で、天女や天人、または、やんごとなき方が登場する時に見られる台詞。能《羽衣》の天女が舞う場面や《須磨源氏》という能では後ジテの光源氏が舞う場面に「笙笛琴箜篌」が出てくる。「笙・笛・琴・箜篌」は楽器の名称。「笙しょう」は雅楽の笙という楽器、「ちゃく」は笛、「琴」はきんの琴の「こと」という楽器、「箜篌」は正倉院に伝わる楽器で現行の雅楽にはなく、ハープの一種。《羽衣》では、天女が天の羽衣を漁師白龍から返してもらい、舞を舞う場面にこの「笙笛琴箜篌」が出てくる。「笙笛琴箜篌 孤雲の外に充ち満ち」つまり、「笙、笛、琴のこと、箜篌などいろいろな楽器の音色が、はなれ雲に満ち満ちて」と、天から妙なる音楽が降ってくるような、耳からも目からも美しいものに満ち満ちた風景というわけです。

Facebook コメント